のばらの読書録

日々読んだ本の記録をしていきます

『JR上野駅公園口』柳美里(2014年)②完

 なんとなく毎週の土日更新を目指してたんですが月曜になってしまいました。まあそういうこともありますよね。

 今回は柳美里『JR上野駅公園口』を読み終わりました。

 前半からちょこちょこ仄めかされてはいたのですが、この小説は自殺した上野のホームレスの男性の意識が上野をさまよいながら自分の生涯を振り返る物語なんですね。ということが読み進めるうちにはっきりとわかります。

 主人公の意識は幽霊のようなもので、自分の経験を振り返りながら、現在上野にいるホームレスたちの様子や公園を訪れる家のある人たちの様子もリアルに淡々と描写します。読者の私はこの霊と一緒に見知らぬ人々の他愛もない会話を立ち聞きし、その人たちの生活にも思いを馳せます。そういう経験もさせられる小説です。

 一方で、この主人公自身の人生を語る部分では、人生に避けられない死別(主人公は息子、両親、妻との死別を経験する)の悲しみに向き合うことを考えさせられます。私はまだ若くそれなりに幸運で、近しい人の死というと祖父母、曾祖母の死しか経験したことがありませんが、苦労して出稼ぎで稼いで21まで育てた息子の急死に深く傷ついた主人公の心情は想像するだに苦しくなります。

 また、出稼ぎをやめて福島の故郷に戻り両親と妻を見送った主人公が、孫娘と暮らしていた家から出て再び上野に戻る場面はとても胸に刺さるものがありました。また自分の話をすると、私もちょうど20前後のころ祖母と二人で暮らしていたこともあり、こんなことがあったらお孫さんどんなに心配し責任を感じただろうと孫の方に感情移入してしまうという。でも、「孫を自分や家に縛ってはいけない」と荷物をまとめて家を出たこの男性の気持ちも想像するとわかるような気がするし、たぶん自分も年老いて孫の世話になって暮らしていたらそういう気持ちにもなるだろうなとも思ってつらくなります。今結構問題になってますよね、孫による介護。路上に出る以外の選択肢がこの人にあればと思ってしまうけれど、実際こういう事情でホームレスになる人もいるのだろうかと思いました。

 作品の中盤、ホームレスについて「昔は家族が在った。家も在った。初めから段ボールやブルーシートの掘っ建て小屋で暮らしていた者なんていないし、成りたくてホームレスに成った者なんていない」という記述があります。そのうちの一人だった主人公の人生を追うことで、一人一人違った人生の成り行きがあって、そこに辿り着いているのだということを、改めて思う作品でした。

 と、考えながら読んだのですが、この作品にはもう一つ通底したテーマがあり、それは「天皇」です。原武史氏による文庫版巻末の解説で触れられていて、こちらもかなり興味深い内容でした。

 作品の最後には3.11で津波に襲われた主人公の故郷が描かれています。ホームレス、天皇制、震災と原発事故、そして東京オリンピックを繋げるこの作品は、刊行から7年となりますが、確かに今こそ読むべきタイムリーな一冊だと感じました。

 

 次は何を読むかまだ決めていませんが、最近買ったのは三浦しをん『マナーはいらない 小説の書きかた講座』です。TBSラジオ・アシタノカレッジの三浦さんゲスト回が面白かったので。でも積み本は他にもたくさんあるので他のになるかも。