のばらの読書録

日々読んだ本の記録をしていきます

『東国武将たちの戦国史』西股総生(2021年)

 久しぶりの更新になりました。ブログの存在を忘れていたのではなく、本を読む時間があまりとれず、読み通せた本がなかなかなかったのです。

 今回紹介する『東国武将たちの戦国史』も、読み始めたのはずいぶん前ですが、最近やっと読み終わりました。1年以上かかりましたね。

 この本は長尾景春太田道灌、伊勢宗瑞、北条氏綱武田信虎長尾為景北条氏康上杉謙信武田信玄など、東国で勢力争いをした武将にフォーカスしています。読むのに時間がかかった理由は、この分野に関する事前知識がほとんどゼロで、いちいち調べたり戻ったりしながら読んだためです。最後に日本史を習ったのが中学時代で、武将の名前も一番有名な人たち(織田、豊臣、徳川……)しか覚えていなかったので、恥ずかしながらこの本で初めて知った人がたくさんいました。北条氏ってそんなに強かったんですね……。

 昔新潟県上越に住んでいたことがあるので、一番テンションが上がったのは上杉謙信について書かれた第七章でした。謙信が若い頃出奔したことがあるとか、毎年関東に出兵してたとかも知らなかったので興味深かったです。

 この本を手に取ったのは、今住んでいる関東にはどんな武将がいたんだろう、どんなお城があったんだろうと思ったからです。この本は有力武将を中心にした内容だったので、目的にはこの本だけでは十分ではなかったのですが、とっかかりとして参考になりました。うちの近くにあった小さなお城の城主たちも、有力武将の配下にあってその影響を受けていたのだろうなとイメージがわきました。この先は地域の図書館で郷土資料を探したりしたらもう少しわかるかもしれませんね。

 

 

 

『算法少女』遠藤寛子(2006年)

 図書館で借りた遠藤寛子『算法少女』を読みました。2006年のちくま学芸文庫版ですが、1973年に岩崎書店から単行本が刊行されたものだそうです。

 江戸時代に算法を学んだ少女が主人公で、時代小説なのですが、あまり知識がなくても物語としてとても面白く読めました。

 私も学生時代は算数や数学が好きでしたが、日本で発達した和算については鶴亀算?くらいしか知らなくて、高度に発達したものがあったのだなあと興味深く思いました。同時に、算法を金勘定でも単なる道楽でもなく、実学の根本として捉える主人公あきの考え方は大事だなあと思いました。このあたりの数学史をもっと調べてみたいです。

 

『偉い人ほどすぐ逃げる』武田砂鉄(2021年)

 今回はちょうど一カ月前に発売された、武田砂鉄『偉い人ほどすぐ逃げる』を読みました。TBSラジオ「アシタノカレッジ」金曜日を聴いていて、オープニングトークで話されていた告知が面白そうだったので発売日に購入しました。それから日々少しずつ読み進め、先ほど読了した次第です。

 内容は2016年から『文學界』で連載しているコラム「時事殺し」から選んでまとめたものということで、過去5年間にあった様々な問題を一つ一つ思い出させてくれる一冊でした。思い出させてくれると書きましたが、私が把握していなかったものもいくつもあり、そんなことがあったのか、とため息をつくページもありました。

 この本で改めて堀り起こされた問題たちには、今も決着をつけられないままになっているものが多いと感じます。去年、今年の一年半ほどを思い起こしても、毎月、毎週、新しい不祥事や権力者・著名人の問題発言などがあり、一つ一つがすぐに新たなニュースの下に隠されてしまって、大きな問題が未解決であってもつい忘れそうになります。そういった問題を「そういえばあれ、どうなった?」と思い出せるこの本は、とても有意義だと思いました。

 

『偶然の祝福』小川洋子(2000年)

 例によって図書館で借りて、小川洋子『偶然の祝福』を読みました。

 小川洋子の作品は『博士の愛した数式』しか読んだことがなかったのですが、穏やかに落ち着いていつつどこかドライな語り口がいいなと思いました。

 短編集ですが、失うことにまつわるうら寂しい不思議な感覚が全話に通底していました。失踪者の王国の話やお手伝いのキリコさんの話、弟を見舞いに行く女性の話が特に印象に残っています。

 私は子供のころ整理整頓が苦手で、よく小さな持ち物を失くす子でしたが、そのたびに失くしたものの行く末を想い悲しい気持ちになっていたのを、この本を読んで思い出しました。そんな感じの本でした。

 今は武田砂鉄『偉い人ほどすぐ逃げる』と伊賀忍者研究会『忍者の教科書』などを読んでいます。読み終わったらまた更新します。それではまた。

『蹴りたい背中』綿矢りさ(2003年)

 数冊並行して読んでるのですが、今回はとりあえず読み終わった綿矢りさ蹴りたい背中』です。

 

 2003年の作品で、芥川賞受賞作として話題になったのを覚えています。私は当時小学生で、気にはなりつつ何となくタイミングを逃し続けて早18年。先日何か小説を読もうと思い、図書館で借りてきて読みました。

 物語の主人公はクラスで孤立している女子高校生・長谷川初実で、その不器用でドライな感性が個性的な印象を受けました。高校生が主人公の小説を読むと自分の高校時代を思い出します。私も友だちが少なく、仲良しグループに入れない方でしたが、初実とは違ったなあと思いました。この主人公、初実はすごく周りをよく見ています。クラスや部活の人を冷静な目で観察し、自分の立ち位置を一段上から見下ろして把握しているかのように見えるのです。初実は今たまたま周りに相性のいい人がいないというだけで、他人に興味がないわけではないんだろうなと思います。私は昔から自分と自分に向こうからかかわってきてくれる人にしか関心がないので、クラスの人の名前もなかなか把握してなかったりしたなあと思い出しました。

 初実には一人だけ友だちと言えるような子・絹代がいて、この距離感も独特なんですが、リアルだなと思いました。深く分かり合ってるわけではないけど、一緒にいるのが苦にならない、いないと少し寂しいような友だちって、学校にいたかもしれません。

 本題に触れないような感想になってしまいましたが、にな川の独特な気持ち悪さと不器用な憎めなさも不思議な味わいのある作品だなと思いました。

 今回はこのあたりで。今は戦国時代や忍者に興味があるのでそういう本も読んでいます。あと他にも小説も読んでるので、次はその辺のどれかになると思います。

『甲賀忍者軍団と真田幸村の原像 甲賀三郎物語を歩く』福田晃・編著(2016年)他

 久しぶりのブログになってしまいました。先月から某ゲームに時間を割いているので本がなかなか進まなくて。

今回は図書館で借りた2冊のレビューです。

福田晃・編著『甲賀忍者軍団と真田幸村の原像 甲賀三郎物語を歩く』(2016)

 去年滋賀県にある甲賀(こうかと読みます)流忍術屋敷を訪ねまして、その写真が表紙だったので興味を持ち借りてきました。

 甲賀忍者の本なのかなと思ったのですが、読んでみると、その祖とされる甲賀三郎伝説の検証がメインの本でした。さまざまな寺社に伝説が伝わっているようで、大きく二系統に分けられるそれらの物語をテキストに当たって分析しています。思っていたのとは違いましたが、その伝説自体知らなかったので、知ったうえでまたあの辺りを訪ねてみたいなと思いました。古文に疎い私には結構難しかったのですが、このテーマに関心のある人には良書だろうと思います。

小松和彦知識ゼロからの妖怪入門』(2015)

 イラストの多いゆるめの本ですが、意外と知らない妖怪も載ってました。ふた口女とか、ちょっと興味深いです。危険・迷惑な妖怪もいれば、特に悪さをしないものや、それ妖怪なの……?と思うようなのもいたりしますね。地方に伝わる妖怪伝説も紹介されてて面白かったです。

 

次は小説を読みたいなあ

『狐付きと狐落とし』中村禎里(2020年)第一部

 今回は中村禎里『狐付きと狐落とし』の第一部を読みました。

 最近なんとなく狐付きに興味がわき、図書館で手に取った本なのですが、結構厚みと文量があり、内容もしっかりした本で、延長して4週間借りたのに第一部しか読めませんでした。続きは気になるものの、いったん返さないといけないので返してきました。今度もう一回借りるか、自分で買うかしようと思います。

 さて、第一部は「狐と寺社ところどころ」と題され、中世~近世から日本各地で伝えられる狐(と狸)にまつわる伝承やそれに関係する寺社について、豊富な資料から由来などが考察されています。

 扱われているのは、那須殺生石になったとされる玉藻の前を祀る「玉藻稲荷」や、茨城・竜ケ崎の「女化稲荷」、安倍晴明の母とされる葛葉狐の伝承がある大阪の「葛の葉稲荷」、義経千本桜の「源九郎狐」の話や兵庫・姫路の「長壁神社」の狐、物ぐさ太郎の話のバリエーションで狐女房のものがあったことなど。

 私はこういった話題に興味はあるものの、知識はまるでなかったので、全然知らないことばかり出てきて読むのが大変でした。日本史や地理、文学作品などについていろいろと調べながら読むのが面白かったです。「人間の女性に化けた狐が人間の男性の妻になり子どもを産んで、子どもと昼寝してるときなんかにうっかり尻尾を出して正体がばれて姿を消す」みたいな話が結構ポピュラーな型の一つなんだなあと思いました。関東ではどっちかというと人間と関係の良い狐の話が多くて、関西の狐の方が(特に古い時代は)邪悪だったというのは面白いですね。人間食い殺したりとか。そして、狐の神社と聞くとやはり稲荷社を連想しますが、必ずしもそれだけではなく、稲荷以外の神社(例:長壁神社など)や寺と狐が結びつくこともあったというのも意外でした。蛇=楠(くす)→葛(くず)=狐というつながりで蛇の話だったものが狐の話になったとか、そのあたりも興味深いです。

 ただ、第一部で扱われていたのは主に人間に化ける狐の話であって、もともと気になっていた「狐付き」の話とはちょっと違ったので、やっぱり本の後ろの方も追々読みたいですね。

 ひとまず次回は図書館で借りた別の本か、部屋に積んである本のどれかになると思います。