のばらの読書録

日々読んだ本の記録をしていきます

『羅生門・鼻』芥川龍之介(1968年)②

 引き続き芥川龍之介の『羅生門・鼻』です。今回は「運」と「袈裟と盛遠」を読みました。

 自分でもびっくりするほど進みが遅くてあれですが、次週でなんとか読み終わりたいな……と思っています。文量でいうと先週分と今週分合わせたぐらいあるわけですが。

 

「運」

 これはわりとさくっと読めました。一言でいうと、「途中恐ろしい目に合うけど最終的には富を手にする」という”幸運”を望みますか?っていう話なんだろうと解釈しました。主人公の男は望むらしいですが、私は御免ですね。

 この話でいう恐ろしい目というのは強姦も含んでいるわけですが、その見返りのように富を得るというのが観音様のご利益というのはなんとも後味のよろしくない話です。

 

袈裟と盛遠

 この本では5話目に収録された短編ですが、初めて一人称小説っぽいものが出てきました。と言っても、盛遠サイド、袈裟サイドの独り言という形で長大な鍵カッコに括られているので厳密にいうと違うのかもしれませんが。

 で、この話で私はとても難しい気持ちになって、今週はここまでしか読めませんでした。

 解説とかWikipediaとかによると、この話の元ネタは『源平盛衰記』にある創作と考えられているエピソードらしく、簡単に書くと、人妻である袈裟に盛遠が横恋慕してその夫を殺そうとしたが、夫を守ろうと身代わりになった袈裟を誤って殺してしまったという話です。芥川がこの粗筋から袈裟と盛遠の内心を独自解釈して小説にしたのがこの短編なのかな。多分。

 この小説では、盛遠と袈裟の間に恋愛関係があったのかどうか、どんな感情があったのかということを掘り下げています。

 一通り読んだ印象では、盛遠が袈裟に向けている感情はどうも、肉欲と蔑視が主で、妙な嗜虐心とか執着もあるようですが、そこに愛情と呼べるようなものがあるようには私には思えませんでした。恋となるとどうなのかわかりませんが。

 一方の袈裟は、そんな盛遠の感情を敏感に察知していて、盛遠のことを(いい人だとかいう意味で)好ましく思ってはいないようです。しかし、「盛遠に性的に魅力的な女として見られたい」という意識が別にあるようで、これはある種の恋といえるのかもしれません。実際独白の最後に袈裟は盛遠を「恋人」と呼んでいるし。しかしこういうこと書いてるとお前の言う恋・愛って何なんだって話になるわけで、面倒だな~。

 そんな二人は作中で肉体関係を持つのですが、ここにどの程度の同意があるのかが読んでていまいちわからないところで、私としてはもやもやします。盛遠は「辱めた」、袈裟は「体を汚された」と表現しているのを見ると、ある程度一方的なものだったのだろうと推察されますが、袈裟は自分を汚したその男を愛していたという。別にそこに矛盾はないと言えばないのですけどね。

 こういう風に書かれると、不倫関係を結んだ責任を袈裟が命を賭して負わなければいけないことにある程度話の中で筋が通るようにも見えなくもないんです。作中では「夫のために死ぬのではなく私のために死のうとする」と袈裟が自分の口惜しさと恨めしさに始末をつけるために自分の意志で死ぬのだという風に書かれていて、それはそれで面白いんですけど。でも私はこの話のそもそもの大筋にも、この語り方にもどうにも嫌なところがあるんです。

 なんで袈裟だけが死ななきゃならんのだ。せめて盛遠も死んだらどうなんだ。とまず思います。元ネタがそうだから仕方ないといえばそうなんですけど。私は元ネタをちゃんと読んでないので迂闊なことは言わない方がいいんですが、Wikipediaによると袈裟御前は孝道と貞節の狭間で死を選んだ貞女とされてきたらしく、そう書かれると彼女の死は禊みたいな意味合いに見えます。でも、袈裟より盛遠の方が悪くないですか?元ネタは知らないけど、芥川のこの小説の解釈にしたって、袈裟より盛遠の方が悪いと思います。袈裟を「辱めた」のも、夫を殺そうって言いだしたのも盛遠だし。まあ袈裟もその場では殺害に同意してるんであれですけど。

 それに、袈裟を貞淑で哀れな被害者、聖女として持ち上げて書いたとしたらそれはそれで悪いと思いますけど、袈裟も盛遠に気があったんだっていう風に書くのもどうなんです?ってちょっと思う。だって袈裟にも責任があるにしたって盛遠にだってそれより大きな責任があるはずなのに、死ぬのは袈裟だけ。女が自分を犯した男を「実は好きだったから」殺さずに、自分だけが罪を背負って殺されてくれるっていう構図に見えてしまって気持ち悪いんですよね。

 まあここまで書いておいてなんですけど、この小説は殺害直前、盛遠と思われる人物が袈裟の元に訪れるところで終わっているので、もしかしたらこの世界線では袈裟は死ななかったかもしれませんね!ちょっとその方向でも考えてみたいと思います。

 

と、いろいろ考える話でした。深い読みには知識も思考も足りてないと思いますが、今日は一先ずここまで。